編集部 2019.04.09 オーケストラ演奏家を徹底解剖!九州交響楽団・佐藤太一ロングインタビュー【後編】

前回は佐藤太一さんの学生時代のお話を伺いました。後編はいよいよオーケストラ奏者になった経緯や収入といった、職業に関する詳しい内容に触れていきます。

■フリーランスの演奏家という道

──フリーランスの演奏家とは、どんな活動をして、どうやって仕事を取ってくるんでしょうか
仕事は大別すると人様から戴くか、自己プロデュースして作っていくかに分かれます。オーケストラ業界で他の人から仕事をもらう場合は分かりやすくて「このオーケストラで、この期間、この曲を演奏してください」という単発の依頼で、僕らの間ではエキストラと呼んでいます。

自分の先生や、オーケストラ奏者の方からお話を戴くことになります。その他にも、依頼を受ける形で室内楽のコンサートに出演したり、時にはレコーディングのお仕事があったりもします。

サックスやトロンボーンなどであれば、ポップスにジャスに、かなり活動範囲が広いですよね。オーボエはオーケストラ・室内楽・吹奏楽といった、いわゆるクラシック音楽以外での活躍は少し難しい。なので働き口は多くないともいえます。反面、オーボエは奏者の絶対数が他より少ない楽器なので、演奏家としての競争率はそう変わらないかな、とも思います。

自己プロデュースの方法はいくつかあって、たとえばCDや企画書を作って、ホールや会社・団体に売り込む。僕は大人になってから結果はついてきませんでしたが、音楽コンクールで賞を取るのも立派な自己プロデュースでしょう。

就職試験にあたるオーディションを受け続けるのも「受かりはしなかったけど、受けたあとお仕事に呼んでいただけた」なんてこともあるので、大事なアピールです。もちろん合格できれば、晴れて夢だったオーケストラメンバーですし。

今だとプロ奏者の中にもyoutubeなどの動画サイトやSNSをうまく利用する人もいます。諸々ひっくるめて『自分を知ってもらうための努力』とまとめることもできますね。何がどこでお仕事を戴く機会に繋がるか分からないので、選り好みしないで色々やってみることは大事だと思います。


──フリーランスでの活動に、金銭面や心理面で不安はありませんでしたか?
当然フリーランスでやっている時はお金がなくて、食費を削ったりアルバイトをしていたこともありました。中にはそういった『副業』が忙しくなって「音楽のほうはどうなっているんだろう」って感じの人が出てくるのも事実です。逆にお金を貯めて外国に留学して、海外の楽団でプロになった人も知っています。

僕はあまり音楽と関係のない仕事で稼ぐのが怖かったので、大学でオケの期間演奏バイトとか講義のアシスタントをしたり。普通の大学で例えると、研究員や大学図書館の職員、ティーチングアシスタントをする研究者とかと感じは近いでしょうか。

オーボエ・ファゴット・ホルン・コントラバスといった楽器は専攻生が少ないので、大学からの仕事を比較的もらいやすい楽器だと思います。その他にはコンサートホールでのアルバイトをして、収入を補いながら生活していました。

当然ながら常に将来に対する不安はあって、年齢的に受けられるうちに、少しは求人数の多いであろう警察や自衛隊の音楽隊を端から受けようかと思ったこともありました。

僕は受賞歴もなく、取り立てて華々しいプロフィールも書けないし、ソロのCDも出したりはしていなかったので「いつも確実なプレーを」と心がけて、日々のお仕事をしてきました。そしてご縁を少しでも広げられるよう、参加できるオーディションは、ほぼ全てチャレンジしました。コンクールも大きいのは必ず受けて。

どこかで聴いてくださっている方は必ずいます。色んなご縁に助けられつつ、5年間のフリーランス(契約団員やアカデミー生を含む)生活の後、いまの職場であるオーケストラに入団することができました。

プロのオーケストラ団員になるための倍率は平均して40~80倍、場合によっては100倍を超える狭き門です。就職という意味ではなんとかなった今、確実なプレーに対する考えは間違ってなかったと感じますし、今もこの先も、変わらずモットーにしなければと肝に銘じています。


──イラストレーターや小説家など、他のクリエイターと通じる部分も多そうですね。演奏家の場合、プロとアマチュアの境はどこにあると思いますか?
言葉でキッパリ分けるのはちょっと難しいですね。かなり大雑把な区分だと、お金をもらって演奏するのがプロ、逆に団費や参加費を払って舞台に立っている間はアマチュアです。でもアマチュアの方でも別の楽団でお礼金をもらって演奏していることがあるし……。

音大を出ても報酬を頂いて演奏する機会が多くなかったり、かたや一般大学出身でもコンクールで賞をとったり、何らかの理由で注目されて音楽家としての収入が増えてやっていけるようになったり、プロオーケストラに合格する人など……本当に色んな人がいます。

なので僕個人としては『音楽活動での収入が生活の軸になっているかどうか』かなと思います。演奏はもちろん、レッスン等の収入もあり、その比重も人それぞれですが。

プロのオーケストラや、自衛隊や警察等の音楽隊のように『演奏が主な活動』の団体に楽団員・演奏メンバーとして属していれば「自分はプロです」と自己紹介しやすいですが……、「オーケストラをやっています」というと、音楽とあまり関係のない職業の方からは「……ですから、ご職業は?」と聞き返されることもあります。まだまだ「プロの音楽家」というものに対する認知が進んでいません。それが進めば、いずれもう少しわかりやすく線引きできる世の中になるのかもしれませんね。

公務員はもちろん、嘱託員、プロオーケストラ楽団員の多くはサラリーマン、つまり月給制です。もちろん、僕が所属している九響もです。

■オーケストラと資本主義

──月給が出るということですが、一般的な月給制のお仕事との違いを教えてください
基本給や昇給、職務手当等が存在する点では、普通の会社と大きくは変わりません。明確な違いがあるとすれば、残業がまずないこと。決まった時間か、それより早くに終わります。

サラリーマンとしても拘束時間がかなり短く、リハーサルの日は13~18時とか。時間帯は団体にもよりますし、色んな都合で動くこともあります。

本番の日は、夜のコンサートであれば大体15時頃集合。僕の場合は音出しや練習のため、開始時間より1時間以上は早く行くようにしています。場合にもよりますが、遅くとも40分前には着いていますね。

第九公演やニューイヤーコンサートが重なる年末年始のように忙しい時は出勤日が月20日を越えるのに対して、コンサートが少ない月では月10日くらいしか出勤しない時も。給料は基本的には変わりません。

数字では少なく見えるかもしれませんが、休日といっても次の公演の練習や所属オーケストラ以外のお仕事(演奏およびレッスン等)もあります。先程言った消耗品の補填やリペアに行くこともあります──それも僕は福岡住まいなので、東京や大阪の楽器店まで……。

職業がら出張や移動も多いので、休息を取ることまでを考えると、暇というわけでは決してないです。少し制限があったり、日数も多くはないですが、有給休暇等もあるので、同じ楽器の団員さんと上手く出番を相談し、有給休暇も上手く使いながらスケジュールを組み立てます。


──かなり特殊な勤務体系で、休日の使い方も難しそうです。練習と休暇のバランスは取れていますか?
個人の練習は長くダラダラやっても意味がないので、2・3時間程度、しっかり意図を持ち集中して行います。リハや本番から帰ると疲れて手につかないこともあります。ただ、休日には先々のプログラムを予習するために、長時間頑張るときもあります。特にソロの本番を控えていたり、譜読みしないといけない作品がたまっている時などは……。

リードの調整、譜読み等の勉強、良い音楽を聴くインプットの時間とかも練習時間にカウントすれば、もっと長いのかもしれません。ですが、過程よりも本番での結果が評価される職業なので、短時間でも効率的な上達の方法を常に模索しています。

そこまで吹くのが大変ではなかったり、やったことがある曲であれば、曲自体の練習は短時間──数日から1週間くらいあれば、練習そのものは足ります。もちろん事前にCDを聴いたり楽譜を眺めたりはしていますが。

難しそうなソロ、重要な部分などがある曲は2ヶ月前くらいから少しずつ準備を始めます。それでも、長めに時間をとる曲であっても一曲一曲にかける時間は、学生やアマチュアより明らかに短いです。短時間でも満足に仕上げる、ということがプロの責務とも言えます。通常の公演はリハが1つあたり、長くても3、4日が基本なのもその証左と言えます。

休みとのバランスは非常に難しいところで、完全な休みとなると3連休は欲しい──1日完全オフで、残りを次の練習やリードの準備、事務作業にあてます。2連休や1日休みだと次のことを考えてしまって、そんなに気が休まりません。

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年に1、2回取れるか取れないかですが、長期休みは意図的に取るようにしています。一週間とか10日くらい。人にもよるでしょうけど、僕の場合はいわばマンネリ化というか、悪い意味で音楽すること、楽器を演奏することに対して麻痺みたいなものが生まれ、バカになってしまう。

楽器から離れてみると身体的にも無理な力が抜けて、今まで詰まっていた所がうまく吹けるようになったり、精神的にもリフレッシュすることで、新しいやり方を見つけたり、良い音が出るようになったりという効果はあるはずです。

中途半端に数日ずつ休むより、多少無理して一時期詰め込んででも、その後パーっと休むのは、僕にとっては効果的なリフレッシュ方法だと思います。スポーツ選手と似たようなところがありますね。オフシーズンの使い方は工夫すべきだし、大事な時間だと思います。


──お給料について、可能な範囲で教えてください
個々の契約もあるし、詳しい部分は社内情報なので(笑)あくまでオーディション募集要項で公示されていた内容になってしまいますが──僕が受けた5年ほど前、九響の30歳モデルケースでは、通常の奏者だと年収340万円、首席奏者は手当て込みで390万ということになってたはずです。

税金や年金が引かれて、交通費だとかの諸手当を全て省くと、そこまで高給取りではないでしょう。住宅・被服(衣装など)・消耗品の手当てもあるにはあるのですが、充分かといわれれば、そうでもありません。特殊楽器の手当やインスペクター(事務職)手当などが別に用意されている楽団もあります。

先程も言ったとおり、楽器の工面や消耗品にもお金がかかります。手当で頂ける額では補いきれないことがほとんどなので、同じ年収の普通のサラリーマンと比較すると、基本的には自分で使える額や貯金額は多くならないと思われます。

オケ業界全体では、もっと安いところも、高いところもありますし、団体ごとに違います。ボーナスの有り無しも業界で決まりがあるわけではなく、年2~4ヶ月分ほどが多いのではないでしょうか。

少し前のデータですが、一般でも見られるデータで調べた結果、低いところで楽団員の平均年収が200万円台、一番高いクラスで1000万円ほどという記事が見つかりました。

月給とは別に、業界の慣例で副業OKとなっているので、フリーの頃と同様、レッスンの講師や室内楽、ソロ演奏で報酬を戴いたり、他団体でエキストラとして活動したりもします。

他には楽器の選定(※3)だったり、オーボエ・ファゴットの奏者はリードを作って楽器店に卸すこともあります。これは完全に個人での活動なので、毎年自分で確定申告しています

mane_img_ob_taichi_satoh_07楽器の選定にはプロの目が必要不可欠

※3.管楽器の出来には幅があるため、プロ奏者が試奏して良い楽器を見定める。選定品と呼ばれ、通常よりも高品質・高価格で販売される


──オーケストラ全体のお金の動きには、やはり特殊性があるのでしょうか?
オーケストラは、正直に言って『興業』の中では儲けの少ない部類だと思います。まず演奏する会場の使用料が高いんです。

都内のあるホールを例に出すと、演奏会での使用が多い午後は平日で110万円、土日祝は132万円──それでどれだけ人が入れるかというと、約2000人しか入れません。リハで使えばさらに使用料も上乗せされます。

同程度のプレイヤー数が所属するプロ野球では、コンサートホールの20倍以上入る球場ばかり。さらに週6で開催、グッズや飲食物の販売、試合ごとに放映権もある。興行としても成立しています。だからこそタイアップやスポンサーも多く付きやすい。

野球チームで買い取りや移転の話が出るのは、それだけ場所と使用料が重要で『買うことで儲けられる』という資本主義の基本テーマに沿っているから起こることともいえますね。

都内オーケストラのチケットはよほど特別な公演でない限り、高くてS席が8000円前後、A席はその7~8割、B・C席があれば4~6割といった具合に下がっていきます。コンサートによっては学生1000円~ということも。もちろん毎回が満席とはいきません。

同じクラシックでも、ソロとかデュオのコンサートあれば、奏者とスタッフ数名でも300人から1000人ほどのお客様に聴いていただくことができます。ホールも小さければそのぶん使用料も抑えられます。オーケストラも地方だとホールの使用料は下がるのですが、その分チケット料金も安くなるので、そこまで都内のオケと収支に差はないでしょう。だいたい先程のA席の価格でS席を購入できるので──適切な言い方かは分かりませんが、コスパはいいですね(笑)

オーケストラでは舞台に乗る人数が多いため、楽団員の人件費、それに比例して多くのスタッフが必要に。さらに指揮者やソリストの報酬、大編成の場合は外から呼ぶエキストラ奏者の報酬、特殊な楽器を使用する場合はレンタル料、著作権等の関係で高額になりがちな楽譜のレンタル料……。それらが全部経費なので、チケット収入だけで補うことがきれば御の字、一回の公演としては赤字になるケースも少なくないです。

早い話、収益構造が悪く、資本主義の目線から見るとビジネスモデルとして破綻しているんです。なので、多くの楽団は厳密には会社や役所ではなく『公益財団法人(※4)』となっています。九響も同じです。そうして自治体や公共団体、企業からの助成金、協賛金や寄付の上になんとか成り立っている、危ういバランスといえます。

そんな事情もあって、日本の法律の上で活動するには、いまのところ公益法人としてやるのが理想的なようです。中には数年前の公益法人制度改革の余波で一般社団法人としてやっていくことになったり、非常に残念な例では自治体や公共団体からの助成金が廃止・減額されたり……、過去には企業がスポンサーから降りたことで存続の危機に瀕した団体もあります。

新規参入の団体も、立ち上げ段階ではプロなのにNPOのような状態からスタートしたり。今はその辺りも含めて、日本オーケストラ連盟や、オーケストラにも労働組合があって、みんなでなんとか良くしていこうと動いている状態といえます。

※4.一般財団法人の中でも、公益性があると認められた事業を行う団体


──舞台上では華やかでも、金銭的な事情に限ると余裕があるわけではないんですね
お客様からも仲間からも「夢が壊れる!」と怒られるかもしれませんが、それはどうしても否定できない現実だと思います──団体としても、音楽家個人としても。

これからは今よりさらに音楽家、それを取り巻く事務方のスタッフや音楽事務所、ひいては業界全体が、クラシック音楽やオーケストラの付加価値を高めていくことが必要でしょう。第一に、それぞれのオーケストラ・音楽家個人のブランディング。

それに加えて政治も巻き込むような形で、お客様がコンサートホールに演奏会を聴きに行くこと、企業や自治体が公演を依頼すること自体が「ステイタスだ」と感じていただくこと。日本ではクラシックに限らずあまり浸透していませんが、欧米のような、資産家や名士の方々の寄付行為に対する理解と慣れが、日本がさらに良い『文化の国』になるための道筋なのかな、と個人的には思います。

これからの音楽家や、そのマネジメントで必要とされていく人物像は、そんな大きな枠のビジョンをおぼろげにでも描ける人なのかもしれませんね。

オーボエ奏者である僕個人の金銭事情は、恥ずかしながら……、といった感じです。より良い演奏のためにリードの試作をしたりで、数万円がポンと飛んでいくこともありますし。楽器に関しては採算度外視な面もあるので、カードの支払い額を見るのが怖い時も(笑)

現状としては「なかなか大変だな」というのが正直なところです。でも翻せば『それを補って余りある、夢がある、やりたいと思える、そしてやり甲斐がある職』だと思っているからこそできる事だともいえます。結局、音楽が好きなんですよね。

最初は高校の吹奏楽部、つまりアマチュア。その頃の「理由はわからないけど音楽が好き」だとか「ちょっと上手くできると楽しい」とか「他人に喜んでいただけたら嬉しい」とか──そういった『原点の気持ち』はプロになろうと、お金を頂こうと……そのお金で苦労し続けたとしても! これからも、大事に持っていたいと思います。

■音楽を広めるということ。自己プロデュースの必要性

──オーケストラ外での自己プロデュースや、インターネット技術の利用について教えてください
ソロの演奏会やイベント等の企画をする場合は、フリーランスの時と同じくチラシだったりの紙媒体を利用しての宣伝が多いですね。コンサートや講習会に後援・協賛を取り付けて、ホールや楽器店に置いてもらったり、コンサートのプログラム冊子に挟み込んで頂いたりします。

今は宣伝ツールとして各種SNSの利用も増えてきています。アーティスト個人だけじゃなく、各オーケストラもSNSのアカウントを所有するのが当たり前になってきました。

Twitterでは、新企画やコンサートの情報発表や予約状況等はもちろん、各団員のプロフィールや楽器の特徴、楽譜の豆知識なんかを、あるオケは面白おかしく、あるオケはまじめに発信しています。

言っていいのか……、九響は正直まだネットやSNSの活用がちょっと遅れているような印象で。日夜、楽団員たちも個人的に奮闘しています(笑)

mane_img_ob_taichi_satoh_08そういう佐藤さんのtwitterでも、演奏家目線の写真が数多く掲載されている

お客様が発信する情報でも「九響の演奏会に行ってきました! 良かったから今度は誰か誘って行きたいな」みたいに一緒に盛り上げようとして下さっている投稿を見かけると、とても嬉しくなります。そうやってお客様が新たなお客様を呼ぶという形は理想ですよね。

もちろん今だとyoutubeで活動している人もいます。演奏やテクニック的な講座を載せて自分の名刺代わりに使っている人がいたり、中には現実世界でプロとして活躍しつつも、ネットの中でもyoutuberとして本格的に動画を作っている人もいます。

僕はどのSNSを使うにしても、舞台裏だとか人となりだとか、普段の演奏だけではお客様に伝わらない部分を見せることを意識していますね。少なくとも僕は、若い頃に音楽や演奏会の作られる過程がもっと見たかったし、機会を探したほうが良かったと思っています。

中には嫌がるメンバーや、見たくないというお客様もいらっしゃることもわかってはいます。でも音楽の本質は『他人を楽しませる』こと──その延長線上にある活動だと思っています。

僕自身、色んな企業の舞台裏を見せてくれるテレビ番組やイベントが大好きで。工場見学とか、車輌基地とかあるじゃないですか(笑)

そんなふうにオーケストラも舞台裏とか音楽づくりの過程とかを、少しだけお見せすることが人々の興味にマッチするんじゃないかな、と思ってやっています。実際にいま、オーケストラでも公開リハーサル等のイベントが好評です。

SNSに載せるには肖像権・著作権などいろいろ制約があるし、基本的に演奏会は『ステージでなにが起こるか、お楽しみに!』のスタンスです。なのでホイホイとリハの演奏動画や録音を公開するわけにもいきません。

ですが対策や理解さえ追いつけば、徐々にリハーサルの様子なんかも公式アカウントから発信されると良いんじゃないかと思っています。すでに前例となるオーケストラはありますし、演奏家個人では当たり前になってきています。そうやって活動の場を広げることで、音楽に興味を持ってもらうきっかけを増やしていきたいですね。

演奏活動そのものとしても、街でアンサンブルを披露するといった課外活動も大事です。機会を頂けたら「普段はオーケストラのメンバーとして活動しています! 今度はこんなコンサートあります」などと言うようにしています。本拠地のホールでただ待っているだけでは、お客様も僕らが何をやっているのか伝わらないじゃないですか。

オーケストラが自治体等とタッグを組んで、小中学生みんなに聴いてもらうといった、いわゆる鑑賞会事業も大事なことです。九響に入る前に、契約団員として神奈川フィルで演奏していた時期があったのですが、そこでフラッシュモブをやったこともあります。




そういった巡り合わせというか「子供の頃に一度だけ生で聴いたことで興味を持って、そしていま実際に演奏会に来た」なんていう方もいらっしゃるので、そういうとき、とても嬉しいです。

絵画や文学は発表された段階で完成していますが、音楽の楽曲作品自体は大昔に書かれていても、生の『音楽』として完成するのは、毎日その時々に、演奏されたその『瞬間』です。何百年もの時を経て、現代でインターネットやSNSの力をうまく借りて、人と人や、人と芸術をより繋げることができる──とてもロマンがあることだと僕は思うんです。

そういった新しい試みも重要ですし、以前からあるコンサート後のお見送りだとか、個人やオケのファンを増やす方法はまだまだたくさんあるはずです。

オーケストラを知っている、聴いたことがあるという子供達が増えると、理解のある大人も増えるはず。そうして少し先の未来に、理解のある自治体や企業がさらに増え、色んな面でオーケストラ、そして地域の文化を支援しよう、そして共にあろう、と思って頂けたら、もっとオーケストラを取り巻く環境は良くできるんじゃないかな……。

ひいては後に音大を受験したり卒業したりする若い芸術家が、少しくらい生きやすい世の中になったらいいな、と思っています。そうした未来が訪れるように、これからも演奏活動そのもの、そして一人でも今より多くの方に音楽を届けられるような努力を続けていきたいと思います。今日もその一環だったりして(笑)


──ありがとうございました。最後に、これから演奏家を目指す人へ、経験者として伝えておきたいことがあれば、お願いします
まず第一に、自分の音楽にこだわりを持つのが大事だと思います。とくに趣味以上で、プロを目指す場合は。他人に受け入れられるかどうかはまた別の話ですが──どう転んでも、こだわりと目標さえ持っていれば、道は繋がっているものです。

オーケストラやアンサンブルは、そういった自分と他人のこだわりが集まって作られるものなので、協調性やバランスを取るのが難しい。でもそれが楽しくもあり、他の芸術分野ではなかなか体験できない、やり甲斐のあるところだと思います。

まだ学生で、これから本気でプロを目指すのであれば、それは本当に狭き門で、ほんの一握りの人しか夢を叶えられないということは、わかっていてください。でも、だから夢を見るな、諦めろというのでは決してないのです。

人によっては両親の反対もあることでしょう。でも人に何かをアピールする力は、アマチュアでも学生でもプロでも大事なのは変わりません。お客様を感動させる演奏も、その演奏会に人を呼ぶのも、ひとつひとつの『アピール』の積み重ねです。ひたむきな姿勢は、自分の技術向上にもなり、近しい人への説得力を得ることにも繋がると、僕は信じています。

親御さんは、少しでも子供からそういった姿勢を感じ取ったのであれば……、金銭的なことは大変とは思いますが、なるべく応援してあげてほしいです。最初に渋々(?)ながらも良い楽器を買ってもらい、レッスンも自由に受けさせてもらった結果、おかげでこうして道が拓けた、僕のような者もいるのです。

お金なり環境なり、外的な要因で夢を諦めてしまうと、心に残ってしまうと思います。僕はそうなりたくなかったですし、そうならないように最大限協力してくれた両親には、とても感謝しています。

もちろん自分のできることを「やりきった」と区切りをつけ、もっと良いと思う違う道を歩み始めるのは、僕はそれも良いことだと思います。自分の納得できるところまで、ビジョンを描いてこだわりぬきましょう。

TEXT/PHOTO:マネチエ編集部
取材協力・一部画像:佐藤太一(@ta1_oboe

佐藤太一 プロフィール

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1987年北海道恵庭市出身。2005年洗足学園音楽大学に入学。2009年同大学を優秀賞を得て卒業、読売新聞新人演奏会(東京文化会館)に出演。

2011-2012年神奈川フィルハーモニー管弦楽団契約団員、2013-2014年N響アカデミー生を経て、2014年九州交響楽団に首席奏者として入団。

これまでにオーボエを辻功、細田てるみの各氏に師事。N響アカデミーにて青山聖樹、茂木大輔、和久井仁各氏のレッスンを受講。現在、九響首席オーボエ奏者。また福岡第一高校音楽科にて講師を務める。

公益財団法人 九州交響楽団
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