編集部 2019.02.13 いち早くワークシフトを実行した先駆者に聞いた「仕事」と「コスト」【Route design合同会社 津田賀央・松井彩香】

リモートワークやクラウドソーシングなどの登場によって、働き方が多様化している現代。選択肢を広く考えれば必ずしも都会に住む必要がなくなるため、環境の良い田舎に移住したいと考える人が増えています。

そこで今回は、都会から長野県富士見町に移り住み、働く地盤を築いたRoute design(ルートデザイン)合同会社の津田賀央さん、松井彩香さんのお二人に、「仕事」と「コスト」についてマネチエ編集部が直接お話を伺いました。

■きっと今後『仕事』というものは変わってくる

──移住までの経緯を教えてください

津田

移住しようと思ったのが4年前、実際に行動に移したのが3年前になります(2018年11月現在)。広告業界から大手メーカーに転職し、サラリーマンとしては安泰でした。

ですが、会社という単位はこれからの社会で残っていくのだろうか? もしなくなった場合に自分は生きていけるのだろうか? そう考えた時に不安がありました。きっと今後『仕事』というものは変わってくる──もとから複業やリモートワークなどに興味があり、自然が好きでよく登山やキャンプに出かけていたので、その二つが自分の中で結びつき、情報を集め始めました。

この距離なら働けるな、と目を付けたのが八ヶ岳です。そこで見つけたのが麓の富士見町の『テレワークタウン計画』でした。ただあまり順調に進んでいるようには見えなかったので「何かできることはありませんか」とメールしてみたところ、トントン拍子で話が進み、10ヶ月後には家族で移住していました。

最初は東京の大手メーカーとの2拠点生活で、富士見町では町役場から委託を受ける形で『森のオフィス』の運営からスタートしました。現在はRoute designという会社を立ち上げ、自治体から企業まで、悩みを解決するような形で、様々な仕事を請けています。

▼森のオフィス
https://www.morino-office.com/


松井:
私が富士見町で働き始めたのは3年前です。両親が長野に別荘を持っていたため、もともと月1ぐらいで通っていました。ですが、知り合いがいなかったので、地域のコミュニティーに属してみたいという気持ちがずっとありました。

津田さんが募集をかけていた『森のオフィス』のお仕事はまさに共感できるもので、東京でのフリーランスの仕事を抱えたまま働き始めました。
 

■収入は意外と変わらず。ファッションは気候や街にあう「良いもの」を選ぶように

──移住する前とした後での、収入とコスト(衣・食・住)の変化を教えてください

津田:

生活の面では、家賃が大きく変わりました。以前住んでいた横浜の賃貸が約12万円、今は8.5万円。移住当時は家賃補助でオールキャッシュバック、翌年はその半額になりました。敷地面積は庭を含めて7~8倍、居住スペースも2倍程度に。非常にコストパフォーマンスが良くなったと思います。

都会ではあまりなかったご近所付き合いで野菜をいただく機会が多いので、食費もぐっと減りました。外食をすることがほとんどなくなり、森のオフィスの厨房で自炊したり、誰かから分けてもらうことも。家には食べ盛りの息子が2人いて、1週間半で5kgの米がなくなるので、こういった貰い物は非常にありがたいです(笑)

『衣』の部分は考え方が変わりました。まず東京でしか履かない靴を2足。これには絶対泥をつけないようにしています。洋服は本気で探したい時は東京に出た際に2時間は使うようにしています。

よく行くのは友達のブランドや、もとから好きだったアウトドアブランドのパタゴニアです。新宿でバスに乗る前に見たりするので、夜でもお店が開いているのは嬉しいですね。富士見町だとほとんどネット通販で済ませてしまっているんですが、商店街に気に入ったセレクトショップがあって、よく利用しています。選択の幅が減った反面、富士見町の気候や街にあった質の良いものを選ぶようになりました。

収入の面では意外なことに、あまり変化がありません。本格的に移住する前の2拠点生活時点での収入は週5勤務から週3勤務になったので3/5に。大手メーカー勤務でベースが高かったこともあって、富士見町での業務委託を含めると一時的に収入が増えたぐらいです。

会社を経営していくうえでは、経費として使うお金が増えました。今は自分自身も経費に含め、意図的に給料を抑えています。完全に移住した今では収入の数字だけ見ると減っていますが、水準的にはあまり変わっていません。今後ずっと同じことを言えるかは分かりませんが、現在は安定しています。

松井:
私の場合は東京でやっていたフリーランスの仕事を抱えたまま、森のオフィスの仕事を請けているので、収入面で目立った変化はありません。同じく食費も外食が減った程度でそこまで変わらず。逆に、長野では東京に比べて家賃が安いので、東京に来る時の滞在費をプラスしてもかなり安くなりました。

衣服は長野ではオフスタイルですが、東京では仕事の用事が多いので、意識して装いを変えています。長野の人は一時的な流行ではなく、長期間着られる良いものを買う印象があります。個人個人が必要な、その人らしい良いものを長くという感じで。東京用の服は買いに行きたいんですが、あまり時間がなく、ついついネット通販で買ってしまいます。

長野では買える場所が東京に比べて少ないので、結果的に服にかけるお金は安くなっています。バッグだけはじっくり選びたいので、東京に出た時に時間を取るようにしています。
 

──労働時間に変化はありましたか?

津田:

以前の職場では徹夜や海外への出張が当たり前にあったので、現在では少し余裕が持てるようになりました。もちろん山という場所柄、夏は忙しかったり、プロジェクトの重なり具合でも変わってきますが、仮に土曜にオフィスに出ていても、ある程度自分で時間をコントロールできるので、家族からの不満も少なくなりました。

子どもが気軽にオフィスに遊びに来たりもできるので、家族との時間を取りやすいという点では、精神的に良いと思っています。家から10分で出勤できるのもいいですね。満員電車ではなく、通勤でも自然を満喫できるのは大きな違いです。

松井:
東京での仕事を持ったまま移住したので労働時間は変わりませんが、最近はお休みの日は意識して休むようにしています。平日でもフルに働かないで、3時間だけ働く日もあったり。
 

■分業やローカルルールにしばられず自分の力が試せる

──移住する前とした後では、仕事内容に変化はありましたか?

津田:
これまで経験した広告業とも大手メーカーとも業務内容が違います。まず社員は自分一人で、プロジェクトごと、業務ごとに人員を配置するという形になっています。人の集め方も独特で、人づてだったり、Facebookだったり、森のオフィスを利用してくれた人だったりと違いはありますが、みんな考え方に賛同して仲間になるというのがこれまでと大きく違いますね。

営業したほうがいいのかなとも思うんですが、ありがたいことに、森のオフィスに次々と相談が舞い込んでくるので、今のところはしていません。森のオフィスが「仕事の集まる場所」として上手く回っています。


──森のオフィスには富士見町以外からもお仕事相談がきますか?

津田:
富士見町に限らず、東京からの相談もきています。今だと、森のオフィス運営の実績を買われて、ノウハウを踏襲した同じようなコワーキングスペースの作成を企画しています。これまでの例だと、農家の方のwebサイトを作ったり、地元の和菓子屋のリブランドも含めた商品開発(塩羊羹)などを手掛けてきました。

現在は仕事相談をもう少しプラットフォーム化し、森のオフィスで請けた相談を常連に割り振ったりできるようになってきています。大きな会社だと分業やローカルルールがあって思考停止しやすかったりしますが、森のオフィスには自分の力を試してみたいという会員が多いので、幅広い案件に対応できます。
 

■仕事を作るにはまず「人に会う」

──仕事の当てがないまま地方移住した場合、どのように仕事を作っていけばいいと思いますか

津田:
僕の場合はそういった事を考えたり、情報を集めるよりも先に行動してしまっていました。富士見町に出会えたのはただ運が良かっただけなので、通常であれば、まずその地域で顔が広い人と会うのが良いと思います。

人に会えば何かしら繋がりが生まれるので、僕は技術や計画よりも、行動することと、その先で何かを拾ってくる力が重要だと思います。今は地元の企業と何かできないかと『IGNITE!』というイベントを開いて、新しい仕事を生み出す試みも行っています。

▼IGNITE!
https://www.ignite-yatsugatake.com/

松井:
私もとにかく人に会いに行くべきだと思います。その地域のコミュニティーでのキーマンと繋がりを持てれば、自分のできることや、やりたいことに結びついて、芋づる式に人も仕事も紹介してもらえるので。

富士見町に来る前年にアメリカのロサンゼルスに住んでいた時も、1週間しかいなかったニューヨークで人を紹介してもらい、仕事をもらうことができました


──津田さんはお子さんもいらっしゃいますが、田舎での教育について何か考えていることはありますか?
 

津田:
通常とは違う教育方法に実験的に参加させてみたいと思っています。子どもでABテストするわけではありませんが(笑)

富士見町にいても高校まで進学させることはできますが、やっぱりそれだと面白くないので。N高やオンライン学校でも良いと思いますし、東京を飛び越えて海外の学校に行かせるとか、アメリカで盛んなホームスクーリングも良いなと。とにかく従来の教育とは違うものを模索しています。


大学の保養所として使われていた木造施設をリノベーションし、2015年12月に オープンしたコワーキングスペース。都心から離れても快適に仕事ができる環境作りを目指して建てられたこの施設は、いまでは単なる移住促進に留まらず、新しい働き方を実現する場所として、様々な人に利用されている。

八ヶ岳エリアへ移住したフリーランスから、一般企業の会社員、地元の事業者など。八ヶ岳エリアの様々な人々が集まり仕事場として活用しながら、交流を通じて互いに刺激し合うことで、新しい仕事や共創プロジェクトが生まれるコミュニティーとして育っている。

森のオフィス
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Photo/Text:マネチエ編集部

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