学ぶ 2019.03.10 いま話題の「リカレント教育」って何?社会人の学び直しの大切さ

「リカレント教育」とは、1970年代に経済協力開発機構(OECD)が提唱した生涯教育構想。「社会人が自発的に学び直しをして、キャリアアップにつなげていく教育システム」のことです。現在20代から30代のビジネスパーソンが、人生100年時代を生き抜くために求められているリカレント教育について解説します。

■政府も推進する人生100年時代を見据えた生涯教育構想

目前に迫る人生100年時代では、ひとつの会社で現役時代を終えることが難しくなります。そこで注目されるようになったのが「リカレント教育」です。

・大学卒業後に就職
・社会人となった後に学び直し、スキル獲得のために離職
・再度、転職や起業

政府もこうしたサイクルの普及を後押し。2018年7月には文部科学省からリカレント教育拡充に向けたガイドラインが発表されました。2019年度中にも、実践的な職業教育が受けられる「専門職大学」が設置される見込みです。

■日本の学び直しの環境と現状

これまで日本の就業形態は終身雇用や長期雇用が慣例となっており、社内教育で必要な技術や知識を習得するのが一般的でした。キャリアアップのために離職して、学び直しをするということが受け入れられにくい環境だったのです。

またリカレント教育の授業料に対する公的補助や法整備も不十分でした。内閣府の資料のうち、OECD諸国における「学び直しの国際比較(調査年は2012年または2015年)」によると、教育機関で学び直す人の割合が英国では16%、米国では14%、日本では2.4%。OECD平均の11%も大きく下回っています。

■リカレント教育への補助 費用の最大70%が給付される支援も

このような現状に対し、厚生労働省が新たな施策を打ちました。雇用保険の改正で、今まであった「教育訓練給付金(教育訓練経費の20% 上限額10万円)」に加え、新たに「専門実践教育訓練給付金」が創設されたのです。

これは厚生労働大臣指定の専門的・実践的教育講座を再就職前提で受講すると、教育訓練施設に支払った教育訓練経費の50%(年間上限40万円)が支給されるというもの。さらに訓練終了後1年以内に目標とした資格を取得し、雇用保険の被保険者となる就職をすると、教育訓練経費を70%(年間上限56万円)で再計算して、差額が支給されます。

■リカレント教育の3つの効果 年収、専門性、就職確率

リカレント教育にはどういう効果があるでしょうか? 内閣府が30歳以上の男女を対象に、どの程度の変化があるかを調査しました。自己啓発をした人としなかった人を比較した結果、3つの効果があると分析しています。

効果1:年収が上昇する

年収面では1年後には目立った差は見られませんが、2年後には約10万円、3年後には約16万円もの差がありました。労働者の生産性が上がり、ある程度の時間を経て、賃金の上昇として反映されると考えられます。

効果2:専門性の高い職業に就く確率が上がる

自己啓発講座を受講しなかった場合に比べて、受講1年後にはより高度な技術や知識が必要な職業に転職できる確率が約2~4%上昇しました。

効果3:非就業者の就業確率が上昇する

非就業者が自己啓発することで、1年後から就業確率が10~14%ほど増加する分析結果も出ています。非就業者や離職者にとって、リカレント教育による学び直しや自己啓発は、再就職の強い味方になるのです。

■リカレント教育の実施例(2019年2月時点)

明治大学:資格や技術、語学などのビジネスプログラムを5つのキャンパスで展開

「明治大学リバティアカデミー」では、5つのキャンパスで年間400以上もの講座を開設し、約2万人が学んでいます。女性の仕事復帰、キャリアアップを支援する「履修証明プログラム」は、文部科学大臣より「職業実践力育成プログラム」として認定されました。

駿河大キャンパスにある「アカデミーコモン」は社会人向け生涯教育の中心的施設であり、リバティアカデミーの他にも、大学院ビジネススクールや法科大学院なども設置されています。

筑波大学:全国で初の社会人向け夜間大学院を設置し、修士、博士の学位取得も

筑波大学のリカレント教育は、夜間に東京キャンパス社会人大学院で実施されています。教育課程はビジネス科学研究科と人間総合科学研究科の8専攻で、大学卒業および有職者・就職経験者であることが条件です。

ビジネス科学研究科では、企業の経営・法律問題に対応できる専門職業人育成のための学科や、MBA教育、法曹養成のための学科が設けられています。人間総合科学研究科では臨床実践経験を生かした高度職業人、研究者、教員などを育成しています。

日本女子大学:再就職支援プログラムに特化した求人サイトも運営

日本女子大学の「リカレント教育課程」は、2007年度に文部科学省「社会人の学び直しニーズ対応教育事業委託」として採択されました。女性のための学び直し支援事業のさきがけです。女子大学らしく大学卒業後就職後、結婚、出産、介護などで離職した女性が対象です。

2015年には「職業実践力育成プログラム」に認定され「専門実践教育訓練講座」にも指定されました。独自の求人サイトを運営し、再就職を積極的に支援しているのが特徴です。

■リカレント教育環境はより充実していく見込み

これから訪れる人生100年時代。年齢とは関係なく、本人のキャリアプランに基づいて離職と教育機関での学び直し・再就職を繰り返すことが想定されます。現在の「教育訓練支援給付金」などの制度に加えて、今後リカレント教育も政府主導でより整備され、実践的な教育を受けるのに負担の少ない環境が出来上がってくるでしょう。

TEXT:マネチエ編集部
PHOTO:smolaw/shutterstock.com

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