学ぶ 2019.04.03 あなたは計算できますか?社会人なら知っておきたい住民税の基礎知識

⽇本に住んでいると、都道府県や市区町村といった自治体に対して住⺠税を⽀払う必要があります。会社員の場合、給与天引きが多いので、払っている自覚はないかもしれませんが、その負担は小さくありません。住民税の知識がまったくないと、引っ越しや転職、退職、出産後に天引きされる額が増えても気づかない可能性があります。また税について知ることは、行政サービスにかかるコストに対する意識や、社会参加の意識を高める一歩となります。住民税について学びましょう。

■住⺠税とは

住民税は地方自治体が徴収する地方税です。行政サービスの費用を広く住民に負担させるもので、法⼈に課される「法人住⺠税」と個⼈に課される「個人住⺠税」の2種類があります。

個人住民税は、課税される年の1月1日時点に住民票がある市区町村に対して、都道府県分も合わせて納付します。課税の方式は賦課課税方式と呼ばれ、市区町村が税額を計算して納税者に対して納付書を送付する仕組みです。

課税対象となる金額(課税標準)は前年の所得ですが、毎月の給与明細で控除されている住民税は前年の所得をもとに計算された金額になります。新卒入社の社員の場合、初年度の給与から住民税が控除されないことが多く、2年目から住民税が控除されて手取りが減るケースもあります。

■住民税には「特別徴収」と「普通徴収」がある

通常、会社員などの給与所得者は毎月の給与から個⼈住⺠税が天引きされています。

・特別徴収
給与の支払を行う会社は、天引きした住民税を原則として給与支給日の翌月10日までに市区町村に納付することになります。このような住民税の徴収方法を「特別徴収」と呼びます。

・普通徴収
個人事業主や年金所得者など給与から住民税を差し引くことができない人は市区町村から送られてくる納付書で住民税を納めます。このような住民税の徴収方法を「普通徴収」と呼びます。

■引っ越しをした場合

住民税は前年の1月1日から12月31日までの所得を基準に課税されますが、納付先は課税される年の1月1日に住んでいる自治体となります。2018年7⽉20⽇に大阪市から横浜市に引っ越した場合を考えてみましょう。

2018年の1月1日の住所は大阪市であるため、7月までに大阪市から本人に送付される普通徴収の納付書に従って納付します。特別徴収の場合も、納付先は2018年1月1日の住所で判断されます。職場から自治体への納付時期は6月から翌年5月となるため、2019年5月までは大阪市に対して納付することになります。

■給与所得者が転職、退職したら住⺠税の⽀払いはどうなるのか

転職して別の職場で働く場合には、新しい職場で特別徴収を引き継いでもらえます。「給与所得者異動届出書」の中にある「転勤(転職)等による特別徴収届出書」欄に必要事項を記入し、旧勤務先から新勤務先を経由して市区町村に提出します。⼿続きには1~2カ⽉かかる場合があります。

これに対して、退職の場合は退職した⽉によって手続きが異なります。退職日が6月1日から12月31日までの間であれば、本人の申し出があった場合には職場で残りの住民税(翌年5月分まで)を一括徴収します。申し出がない場合には普通徴収に移行します。

退職日が1月1日から4月30日までの間であれば、原則として職場で一括徴収されます。なお、5月中に退職した場合は5月分が通常どおり特別徴収されます。

■住⺠税が⾼い・安いのカラクリ

それでは、住民税の金額がどのように計算されるのか確認してみましょう。住民税には、1人あたりの金額が決まっている「均等割」と所得に対して一定の税率を掛けて計算する「所得割」があります。

均等割の標準税額は都道府県が1,500円、市区町村が3,500円の合計5,000円、所得割の標準税率は都道府県が4%、市区町村が6%の合計10%となっています。所得割の税率はどこに住んでいても概ね同じですが、自治体によって超過税率を定めているところがあります。

また、均等割の金額は自治体によって若干のばらつきがあります。たとえば、神奈川県の平成29年度から平成33年度までの所得割の税率は標準税率より0.025%上乗せされた4.025%となっており、均等割も標準税額より300円高い1,800円となります。神奈川県の超過課税は、水源環境を保全・再生するための継続的な取り組みに必要とされる水源環境保全税という名目で徴収されています。

■住⺠税を計算してみよう

住民税の所得割額は以下のような式で計算することができます。

・所得割額=(前年中の所得金額-所得控除額)×税率10%-(調整控除額+税額控除額)

「前年中の所得金額」とは、給与の額面金額や副業で得た収入などの「収入金額」から給与所得控除額などを含む「必要経費」を差し引いたものを意味します。給与以外に収入がないという人は源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」がそのまま「前年中の所得金額」になります。

「所得控除額」は、基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除などが該当します。所得金額から所得控除額を差し引くという方法は所得税の計算と似ていますが、所得控除額の金額は所得税とは異なるものが多いので注意が必要です。

「調整控除額」は、所得税と住民税で所得控除額に差があることから、住民税の負担を軽減するために設けられている調整額です。これも住民税特有の調整項目といえます。「税額控除額」は、配当控除、住宅借入金等特別税額控除(住宅ローン控除)、税額調整額などが該当します。

■住民税計算の具体例

家族構成

・夫(35歳、会社員)妻(35歳、専業主婦)と子供2人(8歳と4歳)
・前年中の収入は給与収入のみの700万円
・前年中の社会保険料支払額は70万円
・前年中の生命保険料支払額は18万円(新制度の一般生命保険6万円、介護医療保険6万円、個人年金保険6万円)

前年の所得金額を求めよう

上述のように、所得金額は収入金額から必要経費を差し引いたものです。給与収入のみの場合は、給与の額面金額から給与所得控除額を差し引きます。なお、給与収入が「660万円超1,000万円以下」の場合の給与所得控除は「収入金額×10%+120万円」で計算します。

給与収入(700万円)-給与所得控除(700万円×10%+120万円)=510万円

所得控除額はどうなる?

「基礎控除額」は一律33万円です。また、妻が専業主婦のため「配偶者控除額」は33万円となります。16歳未満の子どもは扶養控除の対象外であるため「扶養控除額」は子ども1人(18歳)に対する33万円となります。「社会保険料控除額」は支払額の70万円です。なお、1年間で支払った社会保険料の合計は源泉徴収票でも確認できます。

新制度の保険では、一般生命保険、介護医療保険、個人年金保険のそれぞれについて支払額が5万6,000円を超える場合の控除限度額が2万8,000円となっています。ただし、合計での限度額は7万円と定められています。したがって、事例における「生命保険料控除額」は限度額の7万円となります。

所得控除の合計=33万円+33万円+33万円+70万円+7万円=176万円

課税所得金額を計算!

税率を掛ける前の段階の所得金額は「課税所得金額」と呼ばれ、1,000円未満の端数がある場合は切り捨てになります。

課税所得金額=所得金額510万円-所得控除176万円=334万円

調整控除前の所得割額はいくら?

課税所得金額に市町村民税と府県民税の税率を乗じることにより、調整控除前の所得割額を算定します。

市町村民税(所得割額)=334万円×6%(税率)=20万400円
府県民税(所得割額)=334万円×4%(税率)=13万3,600円

調整控除額を求めよう

上記の課税所得金額が200万円を超える場合「所得税と住民税における人的控除に該当する所得控除の差の合計-(課税所得金額-200万円)」と「5万円」のうち、大きい方の金額に3%を乗じた額が市町村民税の調整控除額、2%を乗じた額が府県民税の調整控除額となります。

人的控除に該当する「基礎控除」、「配偶者控除」、「扶養控除」の金額はいずれも所得税では38万円、住民税では33万円であるため、人的控除の差の合計は15万円(5万円+5万円+5万円)となります。

これをもとに「所得税と住民税における人的控除に該当する所得控除の差の合計-(課税所得金額-200万円)」を算定すると-119万円となるので、大きい方の金額である「5万円」に3%を乗じた額が市町村民税の調整控除額、2%を乗じた額が府県民税の調整控除額となります。

市町村民税の調整控除額=5万円×3%=1,500円
府県民税の調整控除額=5万円×2%=1,000円

調整控除後の所得割はいくらになる?

調整控除額を差し引くことにより最終の所得割額が算定されます。

・市町村民税の所得割額=20万400円-1,500円=19万8,900円
・府県民税の所得割額=13万3,600円-1,000円=13万2,600円

■住民税の仕組みを知っておこう

住民税を計算するのは骨の折れる作業です。上記の事例では、住宅ローン控除などの税額控除やふるさと納税をした場合の特例控除などがない場合を想定しました。それらの調整があると、もう少し複雑な計算になります。

正確に住民税を算定するのは大変ですが、毎年発⽣する税金です。どのように発生するのか知り、払っているという意識だけはなくさないようにしましょう。

TEXT:マネチエ編集部
PHOTO:PIXTA

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